アカデミアに残るか製薬会社に就職するか悩んでいる。具体的な判断基準を教えて!
こんな疑問にお答えします。
本記事の信頼性
私は就職活動をする前、アカデミアに残るか製薬会社に就職するか悩みました。
実際に製薬会社に入社してみると、就活のときに抱いていたイメージと同じだったこともあれば、かなり異なることもありました。
今回の記事は、実際に製薬会社で研究をしている私から見た、製薬会社とアカデミアの違いを紹介します。
もし、アカデミアと製薬会社のどちらに就職しようか悩んでいるのなら、今回の記事が参考になると思います。
ぜひ最後まで読んでみてください。
本記事の内容
- アカデミアと製薬会社の違い
- アカデミアのメリット・デメリット
- 製薬会社のメリット・デメリット
- アカデミアか製薬会社か【シンプルな判断基準】
目次(クリックすると読みたい部分まで飛べます)
アカデミアと製薬会社の違い
アカデミアと製薬会社の違いはたくさんありますが、大きな違いは以下の4つです。
ポイント
- 目的の違い:論文 or 特許
- 研究スタイルの違い:個人 or チーム
- 生活スタイルの違い:ラボ中心 or ライフワークバランス
- ルールの違い:法律 or 社内ルール
ひとつずつ見ていきましょう。
目的の違い:論文 or 特許
まず、アカデミアの成果物は論文です。
継続的に論文を発表しなければ、科研費を獲得できません。
なので、アカデミアにおける最大の成果物は論文であり、論文を出すことが研究の目的であるとも言えます。
一方で、製薬会社の場合はちょっと異なります。
場合によっては、論文を出しちゃダメって言われることもあります。
それは、製薬会社の研究で大切なのは論文よりも特許だからです。
たとえば、新規の阻害剤を取得した場合、アカデミアであればすぐにでも論文発表したいはずです。
でも、製薬会社の場合は特許を取るのが先です。
特許を取ることで、最終的にその阻害剤が薬になった時の権利を確保することができます。
製薬会社は薬を売ることで利益を得ます。
なので、特許を取得して医薬品候補化合物の権利をおさえないことには、ビジネスが成り立ちません。
営業支援研究や育薬研究などは、むしろ論文を出すことがメインなので、あくまで新薬開発研究の話です。
研究のやり方の違い:個人 or チーム
アカデミアの場合、主として個人で研究を行うスタイルだと思います。
一人ひとりにメインテーマがありますよね。
一方で、製薬会社の場合、一つのテーマを複数人で担当することがあります。
つまり、チームで研究をするわけです。
特に、化合物が仕上がってきて、臨床が近づいてくるとプロジェクトメンバーはより多くなります。
薬物動態や毒性、合成化学、知的財産など、様々な部署で協力します。
テーマの初期段階は、アカデミアに近い側面もあります。
たとえば、論文や学会で得た情報から面白いアイデアが浮かび、初期検討をしてテーマを立ち上げる段階は、ほぼ1人で研究します。
チームで研究する人が多いですが、探索研究者の場合は1人で地道に研究することも多いです。
私は探索研究者なのですが、探索研究者の場合はアカデミア要素も強いと感じます。
生活リズムの違い:ラボ中心 or ライフワークバランス
アカデミアの場合、研究室中心の生活になると思います。
人にもよりますが、やはり論文をたくさん出して実績を積むためには、それなりにラボにこもって実験する時間も必要です。
一方で、製薬会社の場合、勤務管理がかなり厳密につけられているので、残業が多すぎると上司から注意されます。
特に最近は、ライフワークバランスを重視する傾向が強く、仕事だけでなく私生活の充実をはかる目的で労働時間削減が掲げられています。
アカデミアでたまに耳にするブラック研究室のような体制は、製薬会社ではありえません。
なので、プライベートと仕事を両立させるには、製薬会社はとても良い環境だと言えます。
一方で、思いっきり時間をかけて研究したくても、労働時間の関係でできないこともあります。
なので、業務効率を改善して、いかに少ない労働時間で成果を上げるかを常に考える必要があります。
ルールの違い:法律 or 社内ルール
アカデミアの場合、細かいルールは少ないです。
ルールがあるとしても、法律に基づいたものが多いですよね。
たとえば、カルタヘナ法などの規制に基づいた、遺伝子組み換え生物に関するルールなどです。
不活化の方法などは法律に基づいた形でルール設定されている場合が多いですよね。
一方で、製薬会社の場合、法律よりも一段階厳しい社内ルールがあったりします。
社内ルールは慣れてしまえばなんてことないですが、かなり厳しいため、実験を行う前にいろいろな社内手続きをする必要があったりします。
コンプライアンスを守るために重要なことではありますが、研究者からしたら、『そこまでやる必要ある?』みたいなルールがあったりもします。
思い立ったときにすぐに実験したくても、社内ルールの関係でなかなかできない場合もあるので、ちょっとストレスに感じる人はいるかもしれません。
アカデミアのメリット・デメリット
製薬会社に勤めてみると、アカデミアのメリットやデメリットにも改めて気づきます。
私が考えるアカデミアのメリットは次の通りです。
アカデミアのメリット
- 論文が出しやすい
- 業績の多くが自分の成果
アカデミアは、論文を出すことが最終成果物です。
なので、論文を出すことが推奨されますし、論文を出さねばなりません。
また、出した論文の筆頭著者は自分になるので、成果は自分に紐づきます。
がんばった分だけ世の中に論文という形でアウトプットできますし、アウトプットした分は直接自分の実績になります。
論文を出しやすい環境はアカデミアの大きなメリットです。
一方で、アカデミアのデメリットは次の通りです。
アカデミアのデメリット
- 予算が少ない
- プライベートが少ない
- 専門分野を広げにくい
アカデミアは製薬会社に比べると予算が少ないのが一般的です。
なので、お金を気にしながら研究する必要があります。
お金を節約するために、外注ではなく自分ですべての業務をやることもあります。
なので、どうしても実験にかける時間が長くなり、プライベートの時間が少なくなる傾向があります。
もちろん、自分で全て実験する分、技術が身につくというメリットもあります。
また、アカデミアの場合、自分の研究領域を軸にして関連した研究に派生するスタイルで研究領域を広げていくパターンが一般的です。
そのため、専門分野が狭くなる傾向があります。
専門分野外の研究領域に挑戦するのも良いですが、やはり論文を出す必要がありますよね。
研究は積み重ねが大切ですから、ひとつの分野に絞って、時間をかけていった方がしっかりとした論文を出せます。
なので、専門分野は狭く深くなるのが一般的です。
ひとつの領域を徹底的に深堀りしたい場合は良いですが、その分野の研究に興味がもてなくなってきたときに、別の分野へ移るのが少し難しいという特徴があります。
製薬会社のメリット・デメリット
製薬会社のメリットは主に次の2つです。
製薬会社のメリット
- 生活が安定する
- 予算が豊富
まず何より、生活が安定します。
製薬会社は一般的に給料が高いです。
また、時間的にも厳密に労働基準法を守る必要があるため、生活リズムは安定します。
研究に関しては、予算がかなり豊富です。
なので、あまりお金の心配をする必要がありません。
実験目的が理にかなっていれば、ほぼ好きなだけ試薬は買えます。
外注もできます。
研究費が潤沢にある分、研究のスピードはかなり早いです。
一方で、製薬会社のデメリットは次の通りです。
製薬会社のデメリット
- 論文が出しづらい
- 無駄だと感じる仕事が多い
- 異動のリスクがある
製薬会社の場合、特許が優先なので、好きに論文を出すことができません。
また、会社という構造上、どうしても無駄な書類業務も多いです。
お金で時間を買う形で外注ができるので、研究スピードは早いですが、無駄なデスクワークで時間を割かれることもしばしばです。
この辺は今後の製薬会社の課題ですね。
そして一番怖いのは、異動のリスクです。
やはり会社という構造上、突然異動を告げられることはあります。
突然の人事異動で、来年から研究員を引退するってことも可能性としてはあります。
研究が好きな私にとっては、これは結構大きなリスクです。
個人的には、もし研究職から異動となった場合は、転職という選択肢を取るのもありだと思います。
日本ではまだまだ転職はメジャーとは言えないですが、これからの時代は転職は当たり前になってくると予想しています。
アカデミアか製薬会社か【シンプルな判断基準】
結局、アカデミアも製薬会社も一長一短です。
どちらにもメリット・デメリットがあります。
なので、私が思うシンプルな判断基準は次の通りです。
判断基準
- アカデミア:自分のために研究したい人
- 製薬会社:誰かのために研究したい人
生活スタイルや収入、論文、特許など、いろいろな違いを述べましたが、それはあくまで参考に過ぎません。
本質的な判断基準は『自分のために研究するか』か『誰かのために研究するか』です。
アカデミアの場合、まず一番重要なのは、知的好奇心です。
知的好奇心は自分の中に生まれるものですよね。
その純粋な知的好奇心に対して、徹底的に真理を追い求めるのがアカデミアの責務です。
だからこそ、アカデミアは自分のために研究するのが重要です。
たしかに、アカデミアでも疾患メカニズムの研究をしている場合があります。
そういう研究は病気で苦しむ人のためにもなりますから、自分のためだけに研究するわけではないですよね。
ただ、そういう場合でも、まずは自分の純粋な知的好奇心に従うのが重要だと思います。
興味があるからこそ徹底的に掘り下げ、その結果として誰かのためになる発見が生み出されるわけです。
研究の動機は、まずは自分の知的好奇心。それを大切にして研究するからこそ、世の中に貢献できる成果を結果として出せます。
一方で、製薬会社の場合、病気で苦しむ誰かのために薬を生み出したいという気持ちが大切です。
世の中には、掘り下げれば面白そうな研究対象はいっぱいあります。
けれでも、『これを追求することは薬を創ることにつながるか』『患者さんのためになるか』など、より工学的な判断基準が必要です。
たしかに、製薬会社に勤める私でも、純粋な知的好奇心から実験してみることもあります。
そういう遊び心は重要です。
ただ、やはり研究における最大のモチベーションは薬を創ることであり、その目的のためには、どんなに面白い現象が見つかったとしても深追いしないこともあります。
私としては、研究はあくまで手段に過ぎません。
医師や看護師、薬剤師など医療に関係する仕事はたくさんあります。
私はまだ治らない病気に苦しむ人を救いたいという思いから、薬を創りたいと思いました。
その思いを実現できる仕事が、製薬会社の研究員だったという感じです。
まとめ
アカデミアも製薬会社も、どちらを選択しても素晴らしい仕事だと思います。
今回は、私なりの判断基準をご紹介しました。
最近では、アカデミアと製薬会社の共同研究も多くなっており、より産学連携が進んでいます。
なので、どちらに属していたとしても、最終的には研究を通じて医療に貢献できる時代です。
そんな中で、もし製薬会社の研究員に興味をもっているとしたら、ぜひ就職を検討してみてください。
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今回は以上です。